直射日光が当たったバイオリンケースの温度について
高温の環境下ではバイオリンは非常に危険な状態になるということは、以前のページで述べた通りです。
基準になる温度は40度以上という、人間の普段の生活の中ではなかなか遭遇しない気温、室温です。
以前のページでは、特に注意しなければならない例として、真夏の車の中や、電車の足元のヒーターを紹介しました。
もう1つ、原理的には真夏の車内と同じですが、注意するべきことがあります。
それは、直射日光で直接バイオリンケースが温められてしまうことです。
真夏の車内の例では、車の、主にボンネットが直射日光に当たって車内の温度が上がってしまうことが指摘されます。
特に、黒い車ではあっという間に起こります。
車の色によって違いがあるのは、太陽からの熱エネルギーを吸収する度合いが色によって違うからです。
夏の晴れた日に、黒い服を着るより色の薄い服を着た方が暑さを感じにくいのと同じことです。
※ただし、白い車でもバイオリンを破壊するのに十分な温度まで上がりますので、同様に注意が必要です。あくまで比較的、ということです。
話を戻して、この車の例と同じことがバイオリンケースでも起きるわけです。
バイオリンケースの素材により、ケース内の温度の上がり方は変わってきます。
バイオリンケースの素材は主に、次の3つに大別されます。
- 木の枠、板で作られているもの
- 発泡素材フォーム
- つるつるのハイテク素材
木で作られたものは、ネグリ、ムサフィアといった高級メーカーによる高価なケースです。
発泡素材によるものは、GEWA等から出ている、次のようなケースです。
両者は、耐衝撃性ということでは大きく性能が異なるものの(もちろん木で作られたものの方が上です)、断熱効果に大きな差はないと考えて良いと思います。
発泡素材フォームのケースは安価でありながらも、クーラーボックスに使わられる発泡スチロールが想像されるように、断熱効果はある程度発揮されるのです。
注意すべきは、ハイテク素材のバイオリンケース。色は、黒が危ない。
問題になるのは、先ほど挙げた3種類のうち、最後のハイテク素材によるバイオリンケースです。
もちろんこのタイプのバイオリンケースには大きなメリットもあります。
- 汚れてもきれいに拭き取ることができる
- 堅牢性があるが軽く、持ち運びやすい
後者については、粗悪品では堅牢性を担保するのは難しいので、GEWA、BAM、東洋楽器といった一流メーカーの品を選ぶべきではあります。
例えば、各メーカーそれぞれ次のようなケースです。
GEWA Violin Form Shaped Air 1.7 マットホワイト
BAM / バイオリンケース ハイテック・スリム ホワイト 2000XLW
東洋楽器 バイオリンケース プリュームファイバーヴィオII スーパーホワイト
「汚れを拭き取りやすい」「軽量だが丈夫」というメリットがあるものの、ハイテク素材のケースには「直射日光により温められやすく、さらに熱がこもりやすい」という性質があることを、知っておかなければなりません。
これは、車のボンネットやボディの素材感、窓やドアを閉めきっている車内の状況を想像すれば分かりやすいと思います。
ハイテク素材のケースは、その軽量さのために薄い素材で作られています。
カーボンファイバーやグラスファイバーを使って薄い素材でも十分な堅牢性を持っていますが、断熱という点では極めて弱いのです。
また、これらのケースの多くはケースの合わせ目がしっかりと合うように、パッキンのような構造になっています。
そのため、一度熱せられたケース内の空気は、ずっと滞留してしまうのです。もちろん、その間も外部から直射日光が当たれば、どんどんケース内部は熱くなってしまいます。
例として挙げた、前述の3つの製品のリンクは、どれも白いものですが、実はこの色がポイントです。
黒いケースと白いケースを比べると、どうしても黒いケースの方がすぐにケース内部の温度が上がってしまうのです。
もちろん、白いケースを使う場合でも、徒歩の時はなるべく日陰を歩く(人間にとっても良いですね!)、楽器ケースを、身体の陰になる位置で抱えるといった配慮が必要です。
それに加えて、白やなるべく淡い色のケースを選ぶことで、バイオリンを高温に晒してしまうリスクを少しでも減らすことができます。
ハイテク素材のケースが悪いわけではなく、軽いこと、丈夫なことは大きなメリットです。
Eastmanというメーカー※から、白以外にも淡いピンクなどの可愛いケースが発売されています。
※Gewa、BAM、東洋楽器と比べると質は落ちますが、粗悪品ではありません。また、価格が非常に安く、購入しやすいです。
ケースにもしっかりとこだわって、お気に入りの楽器を安全に持ち歩きたいですね。