末席の団員がソロを弾く!? エルガー「交響曲第1番」について

たまーに出てくる、オーケストラのバイオリンソロ

オーケストラの弦楽器、と聞くと、バイオリンやチェロなどを弾かない方でも、ステージに広がった大勢の弦楽器群を思い浮かべることと思います。

実際、オーケストラの弦楽器パートは基本的に「弦5部」という5パートで構成されていて、各パートのメンバーは同じ譜面を弾いています。
弦5部とは、具体的にはファーストバイオリン、セカンドバイオリん、ヴィオラ、チェロ、コントラバスです。

ところが、曲によっては作曲家の指定により、コンサートマスター(コンマス)のみが演奏するバイオリンソロが出てきます。
頻度としてはあまり多くありませんが、有名なところではブラームスの交響曲1番の2楽章のソロなどがあります。

難しいフレーズだからコンサートマスターだけが代表して弾く、というものではなく、ソロバイオリンの繊細な音色を鳴らしたい時に作曲家が指定するのです。

その性質から激しい曲調の部分ではなく、静かな場面でコンマスソロが出てくることがほとんどです。

さらに特殊な例ですが、リムスキー=コルサコフのシェヘラザードという曲も有名です。この曲は交響曲1曲に相当する長編の組曲ですが、全曲に渡ってコンサートマスターのバイオリンソロが活躍します。
バイオリンソロと管楽器や、バイオリンソロとオーケストラが対話をしながら曲が進んでいくイメージです。

このようなバイオリンソロの使い方は非常に珍しいのですが、これが成功したことは明らかです。シェヘラザードは、オーケストラ曲の中でも屈指の人気曲となっていますね。

ここまで、コンサートマスター、すなわちファーストバイオリンの首席奏者によるソロを紹介しましたが、チェロなどの別の楽器の首席奏者によるソロもあります。
そして、バイオリン以外のヴィオラ、チェロ、コントラバスなどの一部のメンバーと演奏するSoliもあります。

特に、バイオリン以外の楽器を伴ったSoliの演奏では、ドヴォルザーク作曲の「新世界」に出てくる以下の部分が有名ですね。

これらのSolo、Soliは、トップや前方の団員が弾くものですが、実は例外もあり・・・

エルガー 交響曲第1番の「Last desk only」という指示

その例外が、エルガーの作曲した、「交響曲第1番」の中に出てくる、「Last desk only」の指定です。
エルガー、Edward Elgarは、誰もが知っている「愛の挨拶」の作曲者です。

彼の交響曲第1番には、次のような箇所があります。

赤く囲った部分に、「Last desk only」の指示があります。エルガーはイギリスの作曲家なので、このように英語で指示が書かれていますね。
ここでいうdeskは、プルトのことです。なので、「最後のプルトだけで」という意味になります。
上段のTUTTIは、(それ以外の)全員で、という意味ですね。

通常、この楽譜のように2段に分かれた場合、2人組の「プルト」のうち、表(客席側)の人が上の段を、裏の人が下の段を演奏します。
ところが、この場合は、下の段を最後列のプルトの2人が演奏し、残りのメンバーが上の段を弾くことになります。

この例では下を弾く2人がメインメロディです。このメロディは、1楽章の出だしから4楽章の最後まで形を変えながら何度も出てきます。
そして、上段を弾く人は、メインメロディを邪魔しないように細心の注意を払って弾く必要があります。

譜例はファーストバイオリンのものですが、セカンドバイオリンやヴィオラ、チェロも同じような指示が描かれています。

音量だけでいえば、トップとトップサイドによるSoliにしても良かったはずです。
しかし、あえて「Last desk」の指定をすることで、遠くからメロディが聴こえてくるような効果を、エルガーは狙ったのでしょう。

ちなみに先ほど、「このメロディは、1楽章の出だしから4楽章の最後まで形を変えながら何度も出てきます。」と書きました。
4楽章のラスト直前では、オーケストラはこのようになります。

ここでも、「Last desk」の指定がされています。
スコアの中で、黄色く囲ったところです。弦楽器のTuttiとフルート、ピッコロ、クラリネットがスフォルツァンドを伴ったオブリガートを演奏する中で、弦楽器の「Last desk」はトランペットやオーボエと一緒にメロディを弾いています。

各楽器のバランスを考えると、各パート2人ずつの「Last desk」パートがどれぐらい音量的に効いてくるかは難しいところですが、舞台を見渡した時の視覚的な効果もあるように思います。

この曲は、通常のコンサートマスターが弾くバイオリンソロがあったり、このような特別なSoliが出てくる、面白い曲です。
ついつい、「私は後ろの方でいいです・・・」などと言ってしまう方も、この曲を演奏するときには「一番後ろがいいです!」とあえて挑戦してみると、曲をより楽しむことができるはずです。

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