音の出始めをはっきりさせよう

なぜ一流プロの音は立派に聴こえるのか?

バイオリンの上級者の音や、私たちがCDで耳にするトッププロの演奏は、どれも美しく、そして堂々としたものです。
音程も正確ですし、クレッシェンドやデクレッシェンド、テンポの揺らぎによる感情表現など、演奏の良さには色々な要素があります。

今回は、こういった要素のうち、「発音」について考えたいと思います。
バイオリンの楽譜の中には、はっきりと演奏したいところと、柔らかく演奏に入りたいところがあります。
これは何も、フォルテの部分がはっきりしていて、ピアノの部分が柔らかく、というわけではありません。

ピアノの音量の指示であっても、音の出始めのタイミングを明らかにしてはっきりと音を出す必要がある場合も多いのです。

立ち上がりのはっきりした音の形

ここで、バイオリンの発音のうち、2つの音のイメージを並べてみます。
1つ目は、柔らかく立ち上がる音のイメージ、2つ目は出だしからはっきり音が出ているイメージです。

今回の記事では、「発音をはっきりさせる」ということを目標にしていますが、前者の音の形が悪いわけではありません。
表現によって必要な音の形は変わります。
もちろんこれらの2つの例が全てというわけではなく、わざとかすれた音から初めて徐々に密度の濃い音にしていくという表現方法もあります。

後者は、出だしからしっかりと音が出ているイメージですが、トッププロの演奏するはっきりした音は、もう少し違う形になっています。

わかりやすさのために少し大げさに書きましたが、この絵のようになっています。
見てわかる通り、音の出始めに一瞬大きな音が出て、その後に一定の音量が保たれます。実際の楽曲では、ここにメロディの変化が生まれたり、クレッシェンドやデクレッシェンドを伴った表現が始まります。

はっきり音を立ち上げるポイントは、弓と弦の静止摩擦力

3つ目の絵のように、音の出始めに音量のピークを一瞬だけ作ることが、バイオリンの音をはっきりさせ、堂々とした演奏に聴かせるコツの一つです。

このような発音をするために知っておくべきことが、弓の毛が弦を擦り始める時に生まれる、静止摩擦力です。

バイオリンを始めた方であれば、バイオリンの発音原理が弓の毛と弦の摩擦によるものだとご存知かと思います。
この摩擦により弦が振動し、駒を伝って胴体が振動し、空気を震わせて音となるわけです。

もしかすると、バイオリンを始めて手に取った方は、弓で弦をこすっても音が出なかった、という記憶があるかもしれません。
これは、松脂のつけ忘れだったり、つけたとしても量が少なかったりで、弓の毛と弦の摩擦が足りないということが原因です。

少し話題が逸れてしまいましたが、この摩擦をしっかりと意識して弓を動かし始めることが重要です。

弓を弦の上に乗せて圧力をかけ、「弓の毛で弦をホールドする」感覚を身につける

摩擦を意識するには、「弓の毛で弦をホールドする」という感覚を身につけることが近道です。
これは、上級者向けの内容ではなく、初級者でも簡単に試すことができます。

バイオリンを構え、弓を弦の上に乗せて音を出す準備をします。ここでは、弦はD線の開放弦を用いるのが良いでしょう。
弓の位置は、弾きやすいところで構いません。

通常、弓を弦の上に乗せた後は、すーっと弦を横にひき(ダウンだったりアップだったり)、音を出すと思います。
しかし今回は、弓を横に動かさず、弓に右手の重さをのせ、弦に弓の毛を押し当てて見ましょう。
強く押し当てる必要はなく、弓の毛が竿に少し近づくぐらいで十分です。

この状態で、ほんの少しだけ、2ミリ〜3ミリ程度ダウン方向に弓を動かそうとすると、弦が振動を始めずに弓の毛に引っ張られることがわかると思います。
もちろん、アップ方向に動かした場合でも同じようになりますが、ダウン方向で試した方が簡単です。
慣れてきたらダウン方向に2ミリ程度、元に戻してアップ方向に2ミリ程度、というようにやってみましょう。

このように、弓の毛に弦がくっついてくる感覚が「弓の毛で弦をホールドする」感覚です。

この状態で、弓の圧力をかけたままさらに弓を動かしていくと、「ギギギ・・・」という汚い音が出てしまいます。
弓の圧力が強すぎるまま弓を動かすと、音が潰れてしまうからです。

そこで、弓の毛で弦をホールドして2ミリほど弓を動かした後、弓にかけた重さを解放しながらボーイングを始めると、「ぽんっ!」というように、弦が弾かれたように振動を開始するようになります。
右手で弦を弾いてピチカート奏法を行った時のイメージが近いと言えます。

これが、立ち上がりのはっきりしたバイオリンの発音、というわけです。
ポイントをもう一度書くと、次の2つです。

  • 音が出始める瞬間は、弓に重さをほんの少しだけ多くのせ、弓の毛で弦をホールドする
  • 音が出始めた瞬間より後は、弓にのせていた重さを緩め、通常のボーイングを行う

最初のうちは、この切り替えがうまくできずに「ギギギ」という音が出てしまうものです。
すると、「下手なバイオリン=ギコギコ」というイメージのために、弓圧をかけずにふわふわと弾くのが無難だと思うようになってしまいます。

確かに、ふわふわと弾くのは耳には心地いいのですが、一旦そちらの弾き方に慣れてしまうと、はっきりとした発音でバイオリンを弾くことができなくなってしまいます。

もちろん、それからでも発音を意識してバイオリンを練習することにより、堂々とした弾き方を身につけることはできます。
しかしあえて初心者のうちに音が濁ることを恐れずに今回紹介したような練習をすることにより、無意識のうちに良い発音方法を身につけることができます。

ふわふわ弾きに慣れてから発音をはっきりさせる練習をするよりも、一度弦を弓の毛で掴む感覚を身につけた後に綺麗な音を探求する方が、指導の経験上うまくいっています。

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