バスク奇想曲の左手pizzで小指を鍛えてみよう

そもそも何故、左手小指の練習が必要なのか?

タイトルにいきなり曲名まで出してしまいましたが、まず、なぜ左手の小指の練習が必要なのか、考えてみましょう。
バイオリンの弦を押さえる際には、人差し指、中指、薬指、小指という、計4本の指を使います。
それぞれの指の太さから想像できるように、人差し指、中指は力が強く、薬指、小指は比較的力が弱いのです。
中でも小指は、他の指に比べて細く、また長さも短いです。

例えば、エレベーターのボタンを押したりするときは、人差し指や中指を使う人がほとんどでしょう。
手の構造のせいもありますが、例えばハンコを押したりするときなどは、親指に加えて人差し指と中指でつまむように持っているはずです。
このように、それぞれの指の強さの違いだけでなく、日常生活でどの程度使われているかという意味でも、違いがあるのです。

一方で、バイオリンを弾く際には、4本の指のどれを用いた場合でも、ある程度均等に弦を押さえることが要求されます。
高度な演奏方法として、中指の肉厚な太さを活かした奏法や、小指の独特の細かいビブラートなどを利用することもありますが、まずは「均等」を意識して練習に取り組む必要があります。
もちろん、ピアノなど他の楽器と同様に、各指が独立して動くということも重要です。

このような理由で、もともと力が弱くコントロールしにくい指である、小指の練習が必要になるわけです。
また、小指の練習を積んだ場合、弦を押さえる力が各指で均等になるというだけでなく、左手の形が整うという効果があります。
バイオリンを弾く左手の形において、その両端である人差し指と小指がしっかりコントロールできるようになれば、おのずと中指と薬指も含めて形が安定するからです。

左手ピチカートの練習と、小指のトレーニングの関係

トレーニングと言う意味ではあまり意識する必要はないですが、弦を押さえる力の方向(指板に向かった向き)と、左手ピチカートの動作の方向(演奏者から見て左から右にはじく)が異なることは知っておくべきです。
ただし、筋肉や腱について考えた場合、どちらの場合も力や動作を要求される部位が同じであるため、左手ピチカートの練習をすることで、左手の小指を鍛える事ができる、というわけです。
もちろん、ここでいう左手ピチカートは、小指ではじく場合を指しています。

バスク奇想曲の左手ピチカート

この記事で紹介するバスク奇想曲(サラサーテ作曲)には、一部に印象的な左手ピチカートの奏法が出てきます。
一般的に左手ピチカートと言うと、パガニーニのカプリース24番やチゴイネルワイゼンなど、弓で弾くスピッカートと左手ピチカートを交互に繰り出すような派手な演奏がイメージされると思います。

今回扱うバスク奇想曲はそうではなく、人差し指から薬指までをD線とA先に置いていき、Arco、つまり弓で弾いてメロディーを演奏します。
そして、その最中に空いている小指でE線(ほとんど開放弦)をはじいて鐘のような音を出す、というものです。
テンポも、先の述べたチゴイネルワイゼンのようなものとは異なり、ゆったりとしています。

具体的には、次のような譜例です。

4の指を左手ピチカートに使う都合上、弓で弾くパートについては開放弦を交えて演奏することになります。
基本的には全てファーストポジションで演奏されるため具体的なフィンガリングは記載しませんが、注意の必要なところなどを書き入れると、以下のようになります。

開放弦ではない左手ピチカート(青枠で囲った部分)についてはかなり難しいので、練習部分から除外するか、左手ピチカートは省略してメロディのみ弾いてもいいでしょう。

練習は、

・全体を通してメインメロディのみを弓で弾く
・E線の開放弦を左手の小指ではじく
・両方を合わせてゆっくりと演奏する

というように、順を追って行う必要があります。

はじめにメインメロディを弓で弾く練習をしっかりとしておけば、左手ピチカートを交えた時に、弓をどの弦に置くべきか混乱することが防げます。
今回の譜例は、各指がある程度独立していないと非常に演奏が難しいため、ゆっくりのテンポで少しずつ行いましょう。

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