「半音は指をくっつける」という指導は、間違っている。

音階における、全音と半音

バイオリンを演奏なさる読者の方のほとんどは、「全音」と「半音」が何かということについて、ご承知のことと思います。
念のためということで、この2種類の音程についておさらいしておきましょう。

ここで、音程とは、2音の音高の隔たりのことを指します。
よく言われる「音程が良い、悪い」という言葉における「音程」という言葉とは、使われ方が違うので注意してください。
(こちらの場合は、単に音の高さが正確かどうが、という意味で使われていますね。)

こんにちでは、音楽における音階として、長音階(メジャー・スケール)と短音階(マイナー・スケール)がよく用いられます。
古くはもっと他の音階も多く使われておりましたが、現在では上記2つの音階が生き残った、というイメージです。
長音階、短音階以外の音階についても、特殊なフレーズ感を求めて現代に使われることもありますが、この辺りのことを話し始めると収集がつかなくなるので、やめておきましょう。

いずれにしてもバイオリンを弾く際には、現代よく使われる音階として、まずは長音階と短音階をおさえておけば良いのです。
この記事では、半音の音程の取り方を記載するために長音階、その中でもニ長調を例に説明しますが、他の長音階や短音階に関しても、考え方は同じです。

さて、ニ長調は、以下の音並びによって構成されます。

この時、隣り合う2つの音の間の音程を「全音」「半音」で示すと、次のようになります。

音階の始まりから、
【全音】【全音】【半音】【全音】【全音】【全音】【半音】
となっていることがわかります。
このような音程の幅の順番で構成されているものが、長音階です。
長音階は明るく楽しい響きの音階ですが、それはこのような全音と半音の並びになっているからこそ生まれるものなのです。

■バイオリンのフィンガリングと全音/半音

さて、先ほどの譜例にある1オクターブのニ長調の音階は、バイオリンの最も基礎の練習となる音階です。
D線とA線を用いて演奏することができ、また開放弦を使って弾くことでより平易になります。

具体的には、左手について次のようなフィンガリングになります。
右手、つまり弓使いは任意として良いでしょう。

この指番号の指示にしたがって弾いてみましょう。そうすると、全音と書いている部分では指の置く場所の間隔が広く、半音の部分では間隔が狭いことがわかるはずです。
そもそも音程とは2つの音の高さの隔たりであるので、これは当然ですね。

「指をくっつける」という指導は間違っている。なぜなら、「音高の正しさ」の聞き分けを放棄させているから。

さて、ここからが本題です。
これまで書いてきたように、バイオリンで音階を演奏する場合は、全音の部分は指の間隔が広く、一方で半音の部分は指の間隔が狭くなるわけですが、これを「指をくっつける」と教えているケースが非常に多いのです。
この指導方法は、耳が鍛えられていない初心者に教える場合、教える側にとって「手っ取り早い」方法だと言えます。
指の位置、とりわけ「くっつく」「くっつかない」というのは目で把握しやすく、一応理解しやすいからです。

そして、音律に関する内容は別記事としますが、指をくっつけることでバイオリンがメロディを弾く際の目安とすべき「ピタゴラス音律」に近づくため、多少「それっぽい」音階になります。

しかし、私はこの指導法は間違っていると各所で断言しています。
それは、この方法で音程を覚えた生徒は指の太さを基準にしか半音を取れなくなってしまうからです。

本来、バイオリンは自由に音程を作ることのできる楽器です。
半音を意図的に狭くとることでエッジの効いたメロディを作ったり、逆に広く緩めに半音を作ることでゆったりしたメロディや伴奏の和声に合わせたりということが、バイオリンならではの音程の作り方、演奏法です。

指がくっつくかどうかで半音の弾き方を覚えてしまったら、これが出来なくなってしまうのです。

いろいろ難しいことを書いてしまいました。
しかしここまで高度なことを考えないにしても、そもそも、以下の2点の問題にはすぐに当たってしまいます。

(1)指の太さは個人差があるため、弾く人によっては指をくっつけた時に適切な半音にならない場合がある。
ファーストポジションにおいては、多くのケースで指をくっつけた半音は狭すぎます。そして、これは重音奏法について致命的に不快なハーモニーの原因になります。

(2)バイオリンは、ポジションが上がるごとに音同士の間隔(音のツボ)が狭くなっていくため、「指の太さ」が唯一の基準になるわけではない。
ファーストポジション以外のポジション、例えばサードポジションなどの練習をした方は、指の開き方が両者で異なることを体験していることでしょう。よりハイポジションになれば、指を入れ替えながら弾かなければならないほど、弦上での音のツボの間隔は狭くなっていきます。
指を入れ替えるというのですから、もはや「くっつく」などという程度ではありません。

どのように教えればよいのか。教わる側としてどのように考えれば良いのか

これは非常にシンプル、かつ簡単な話です。
指が「くっつく」のではなく「近づく」と考えればいいのです。
ファーストポジションでの演奏であっても、ハイポジションでの演奏であっても、全音に比べて半音は指を置くべき音のツボの感覚が狭いのです。

半音は指同士がくっつくのではなく、近づく。そしてその近づき具合を調節することで、ピリリとエッジの効いたメロディを作ったり、柔らかい印象のメロディや伴奏に合わせた響きを作ることができる。

これが非常に重要なポイントです。
半音の音程は旋律の性格を決める上で非常に重要な要素になります。
ですから、「指の太さ」という1パターンしかないものさしで決めてはならないのです。
そして、これはバイオリニストそれぞれの意図、好みが顕著に現れる事柄の一つであり、正解が一つに決まるものでもないのです。

まずはスケールの練習をするときに耳でしっかり響きや全体の雰囲気を聴き取り、どんな「近さ」の半音で演奏するのが良いのか考えるようにしましょう。
半音について考える習慣はとても大切です。スケールを弾く中でしっかりと半音の近さを意識できるようになれば、曲の中で(単純に並んだ音階でなくとも)半音が出てきた時にどのような音程で取るべきか、自ら考えられるようになるでしょう。

※補足
半音の「近さ」を調節するには、上の音にどこまで下の音を近づけるか、というように考えます。
すなわち、今回の記事でのニ長調の例で言えば、
「ファ♯を高めにとってソに近づけるか」それとも「ファ♯を低めにとってソに近すぎないようにするか」という具合です。
前者であればピリっとした旋律、後者であればゆったりとした響きの旋律になるわけです。
和声に合わせる場合の考え方については、別の記事としましょう。

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