バイオリンにおけるアンティークフィニッシュとは
最近では、アンティークフィニッシュのバイオリンが多く観られるように思います。
バイオリンの専門店に限らず、大きな街にある総合楽器店のバイオリンコーナーを覗いても、アンティークフィニッシュのバイオリンが置かれていることが多いです。
一見古いバイオリンに見えたとしても、これらは、新作の楽器です。
アンティークフィニッシュとは、新しい作りたての楽器でも長い年月を経たバイオリンのように見せるために、摩耗したニスや傷の跡など付けながら制作する方法です。
販売時には、アンティーク仕上げ、などと呼ばれるケースも有ります。
「アンティークフィニッシュ」や「アンティーク仕上げ」と言った場合には、これらの工程は偽装を目的として行われたわけではなく、新作の楽器であることを明らかにした上で、経年変化の風合いを楽しむというものです。
これはバイオリンに限った話ではなく、例えば同じく木材を使用した家具などでも行われることです。
アンティークの家具は非常に高額ですが、バイオリンと同じように経年変化を表現した塗装や加工がなされたものを比較的安く購入することが出来ます。
バイオリンの話に、戻りましょう。
アンティークフィニッシュという製法が存在する直接の理由は、もちろんそのようなバイオリンを好んで購入するユーザーがいるからです。需要があればこそ、製作されているわけです。
アンティークフィニッシュを自然なものではない、「邪道」とする意見もありますが、実際に一定数が製作され、そして販売、購入されていることは事実なのであります。
なぜバイオリンの見た目にこだわるのか?
芸術品、骨董品としての価値が付いているオールドバイオリンの銘器も存在しますが、そういった一部のケースを除き、バイオリンの第一義は演奏に際しての道具としての役割です。
当然ここで言っている道具とは、「音を出すための道具」です。
・大きな最大音量
・最大音量から最小音量までのダイナミックレンジの広さ
・ふくよかな柔らかい音色
・弓の動きに対する反応の速さ
楽器に求めることは演奏者によって異なりますが、少なくともこのような事柄は共通して演奏家がバイオリンに求めるところでしょう。
一方で、―特に初学者にとっては―音だけではなく、その見た目もバイオリンを所有する上で無視できないものです。
毎日練習に取り組むのであれば、毎日バイオリンケースを開けて楽器の表板と対面するわけです。
音色ももちろん大切ですが、この時の見た目がバイオリンを弾く上でのモチベーションにつながるのではないでしょうか。
「見た目でその楽器を気に入るか」というのも重要な要素なのです。
生徒が初めてのバイオリンを購入する際(分数楽器ではなく、フルサイズの楽器から始める場合)には、見た目の好みも立派な判断材料だと、アドバイスしています。
バイオリンを購入する際に、心の中に古いバイオリンのビジュアルイメージがあったり、もしくは憧れがあるのであれば、アンティークフィニッシュの楽器を選ぶことが賢明だと思います。
選んではいけない楽器
ここまでで、練習のモチベーションに影響を及ぼすという理由から、楽器を選ぶ際には外観も大切である、ということをお伝えしています。
ただし、
・古いバイオリンらしい、刺々しくない音を求めて、過剰に板を薄く仕上げている楽器
このようなバイオリンは避けるよう、注意しましょう。
板の厚さに関しては外見上わかりにくい場合もありますので、バイオリンの試奏に慣れていなければなかなか判断することが出来ないかもしれません。
ですから、信頼できる楽器店を見つけるということも、重要な要素ではあります。
板を過剰に薄くした楽器は、他の楽器と比較した時に反応よく鳴りやすいように感じるかもしれませんが、耳元でその音色が心地よく聴こえている反面、遠くで聴くと音がぼやけている場合もあります。
また、強い音が出しにくく、音色に変化がつきにくい楽器もあります。
それではバイオリンの板厚が厚ければ厚いほどいいのかというとそうではなく、それは製作家の考え方でちょうど良い厚みを見出しているわけです。
話が少しそれてしまいました。
購入すべきバイオリンを選択する際には、その板の厚みが一般的な基準から観て正常かどうか楽器店に確認することや、楽器を比較する際、すぐに判断しやすい音量や音色だけでなく弓づかいのバリエーションに音色の変化がついてくるか、ということも考えることが必要でしょう。